• SPECIAL INTERVIEW

ボランティア「おもちゃ学芸員」がつなぐ
おもちゃを真ん中に広がる多世代の交流

東京おもちゃ美術館

「東京おもちゃ美術館」(東京都新宿区四谷)はおもちゃにふれて遊べる体験型ミュージアム。赤ちゃんからお年寄りまで、木の美しさと温もりを感じられる空間のなかで、数々の美しいおもちゃに出会えます。また、館内ではたくさんのボランティアが「おもちゃ学芸員」として、一緒に遊んだり、親子のコミュニケーションをサポートしたりしてくれます。東京おもちゃ美術館の取り組みとボランティアの役割について、施設運営部長の橘高春生さんと、おもちゃ学芸員の楠慎也さんにお話を伺いました。

PROFILE

東京おもちゃ美術館

東京おもちゃ美術館

認定NPO法人芸術と遊び創造協会が運営する。前身は1984年に東京・中野の芸術教育研究所の付属施設として開館した「おもちゃ美術館」。おもちゃを「見る」「借りて遊ぶ」「作る」「調べる」の特徴を備えた美術館として23年間愛されてきた。2008年に旧新宿区立四谷第四小学校の校舎に移転。木育やグッド・トイの普及にも取り組む。地域ならではの自然と文化の魅力を伝える「姉妹おもちゃ美術館」も全国各地で設立されている。

〒160-0004
東京都新宿区四谷4-20 四谷ひろば内
TEL:03-5367-9601

「東京おもちゃ美術館」(東京都新宿区四谷)はおもちゃにふれて遊べる体験型ミュージアム。赤ちゃんからお年寄りまで、木の美しさと温もりを感じられる空間のなかで、数々の美しいおもちゃに出会えます。また、館内ではたくさんのボランティアが「おもちゃ学芸員」として、一緒に遊んだり、親子のコミュニケーションをサポートしたりしてくれます。東京おもちゃ美術館の取り組みとボランティアの役割について、施設運営部長の橘高春生さんと、おもちゃ学芸員の楠慎也さんにお話を伺いました。

来館者、ボランティア、
寄付に支えられた「市民立」の
美術館

東京おもちゃ美術館は、1935年に建てられ、2007年3月に閉校となった歴史ある旧新宿区立四谷第四小学校の校舎の11教室を活用。おもちゃ美術館は2008年に中野区から移転してきました。もともと小学校だったこの施設は「四谷ひろば」と称され、地域交流の拠点にもなっています。

建物2階には壁一面に並ぶ積み木のボードがあり、よく見るとそれらの積み木の1つ1つに名前が刻印されています。

寄付で活動を応援する「一口館長」の名前が入った積み木のボード(通称サポーターズボード)

「四谷に移転する際、熊本城が行った一口城主制度にヒントを得て、一口館長の寄付を募ったところ、3000万円の寄付金が集まりました。この積み木には、一定額以上の寄付をいただいた方の名前が入っています。今も『一口館長制度』の寄付で活動を応援していただいており、展示室のメンテナンスやリニューアルをはじめ、東京おもちゃ美術館の様々な事業に活用しています」(橘高さん)

東京おもちゃ美術館の橘高春生さん

東京おもちゃ美術館は、「市民立」の美術館として、認定NPO法人芸術と遊び創造協会が運営しています。市民立という考え方について橘高さんはこう説明します。

「市民立とは、私たちの造語ですが、入館料を払って訪れてくれる来館者の方はもちろん、ボランティアとして参加するおもちゃ学芸員の時間の寄付と、一口館長制度に基づくお金の寄付によって成り立っています。一人ひとりの市民の皆さんが集まって美術館をつくっているという思いを込め、市民立を掲げています」

美しいおもちゃが子どもの感性を育む

美しいおもちゃが
子どもの感性を育む

館内には「おもちゃのもり」「赤ちゃん木育ひろば」など8つの常設展示室と、100カ国10万点の収蔵品からテーマごとにおもちゃを展示する企画展示室があります。国産材もふんだんに使った館内は、大人が訪れても懐かしさと目新しさを同時に味わえます。

国産材のぬくもりにあふれた館内(東京おもちゃ美術館提供)

順路の最初にあるのが「グッド・トイてんじしつ」。この部屋には、国内外のおもちゃに精通し、おもちゃを見る確かな目があると同協会が認定した有資格者「おもちゃコンサルタント」が選んだ「グッド・トイ」が100点あまり展示され、実際に手に取って遊ぶことができます。美しい色や形のグッド・トイは、コミュニケーションを豊かにするといいます。

「グッド・トイてんじしつ」には、世界中から選ばれた多種多様なおもちゃが並ぶ(東京おもちゃ美術館提供)

「私たちは、おもちゃは人間が初めて出会うアートだと考えています。赤ちゃんの頃から美しいおもちゃに触れて遊ぶことで、美しい感性を育むことができます」(橘高さん)

コロナ禍の前は、海外からも多くの人が訪れていました。木の文化や日本の伝統の遊びなども、子どもたちや幅広い来館者に伝えていきたいといいます。

PHOTO GALLERY
  • おもちゃ学芸員の遊びのパフォーマンスを見つめる子どもたち(東京おもちゃ美術館提供)

  • 幅広い年代のおもちゃ学芸員が活動する(東京おもちゃ美術館提供)

  • テーブルサッカーに笑顔がはじける(東京おもちゃ美術館提供)

  • 「赤ちゃん木育ひろば」では小さい子どもものびのびと遊べる(東京おもちゃ美術館提供)

  • こまやお手玉、琉球玩具などの伝承遊びが楽しめる「おもちゃのまち あか」(東京おもちゃ美術館提供)

  • 普段は海外からの観光客もたくさん訪れる(東京おもちゃ美術館提供)

おもちゃが2割、人が8割
「おもちゃ学芸員」がつなぐコミュニケーション

おもちゃが2割、人が8割
「おもちゃ学芸員」がつなぐ
コミュニケーション

展示室を巡っていると初めて見るおもちゃにも巡り合います。そんな時に頼りになるのが、赤いエプロンをしたボランティアスタッフ「おもちゃ学芸員」のみなさんです。コロナ禍の前は、週末で1日600~700人、多い日は1000人以上の来館者が訪れ、午前・午後に約16人ずつのおもちゃ学芸員が活動。遊び方のサポートに加え、おすすめの部屋を案内する館内ツアーや、紙芝居、わらべうた遊び、切り絵、バルーンアートといった様々な「おもちゃ学芸員プログラム」で、子どもから大人まで多くの人を楽しませていました。

おもちゃ学芸員が子どもたちから遊び方を引き出す(東京おもちゃ美術館提供)

おもちゃ学芸員の役割について、橘高さんは次のように説明します。

「子どもは遊びの天才です。きっかけさえつくってあげれば、遊びはどんどん広がります。そうした子どもたちの発見に、保護者の皆さんが気づくことも大切です。おもちゃ学芸員が子どもたちから遊び方を引き出し、遊びの介助をすることで、多世代の交流がおもちゃを真ん中に広がっていきます。人と人とのコミュニケーションにおもちゃが果たす役割は無限ですが、それを引き出すのはおもちゃの力は2割で、残りの8割はやはり人なのです」

2日間の「おもちゃ学芸員養成講座」を受講した後に活動するおもちゃ学芸員は約300人。20歳前後から80代後半まで幅広い年代にわたり、保育の仕事をめざす人や、現役で働く人、定年退職後の人など、実にさまざまです。

普段は、多くのおもちゃ学芸員が活動する(東京おもちゃ美術館提供)

おもちゃ学芸員になって約5年の楠さんは、もともと工作が好きで、情報通信会社で働きながら週末を中心に活動してきました。ボランティアを始めてからさまざまな発見があったそうです。

「おもちゃのパッケージには遊び方が書いてあるものもありますが、子どもたちは、私たちには思いもよらない方法で、本当に自由に遊んでいます。遊び方に正解などないんだと驚かされました。だからそんな時には隣で見守る保護者の方に、“スゴイことを考えたね”と褒めてあげてくださいと伝えています」

親子に優しく寄り添う、おもちゃ学芸員の楠慎也さん(右)

臨時休校中の子どもたちに遊びの動画を配信

臨時休校中の子どもたちに
遊びの動画を配信

2020年4月に緊急事態宣言が発出された際には、東京おもちゃ美術館も2カ月間の休館を余儀なくされました。その後、開館したものの、一度に入館できる人数やおもちゃ学芸員の活動が制限されています。それでもオンラインも活用し、スタッフとおもちゃ学芸員の交流も絶やすことなく続けてきました。

コロナ禍では感染防止策をとり、遊びを見守る

「全国のおもちゃコンサルタントの協力で、臨時休校中だった子どもたちの遊びをサポートするため、動画で『3分でわかる おうち遊びシリーズ』を配信し、簡単にできる遊びを紹介するなど、とにかくできることを続けました」(橘高さん)

インクルーシブをテーマにした、おもちゃ学芸員の研修会(東京おもちゃ美術館提供)

おもちゃコンサルタントでもある楠さんも、動画に参加。一方、館内でのボランティア活動はストップせざるを得ない状況でしたが、その際の気持ちを次のように話します。

「頭をよぎったのは、来られなくなった子どもたちのことです。病気のお子さんや子ども食堂での遊びのサポート活動にも参加し、今まで接点のなかった世界にふれました。ニュースで子どもの貧困や病児、虐待などの問題が報じられると、ボランティア活動を通して知った子どもたちのことを考えてしまいます」

東京おもちゃ美術館では「難病児と家族の遊び支援」として、おもちゃコンサルタントの小児病棟への派遣や、美術館への招待を行っていますが、オンラインの取り組みで活動の新たな可能性がみつかったそうです。

「オンラインであれば、寝たきりのお子さんも同じ空間に集うことができます。病気の子どもだけではなく兄弟も参加することができたり、疲れたら画面をオフにしたり、自分のペースで参加してもらえることもわかりました」(橘高さん)

ボランティアにとって必要な場所になることが大切

ボランティアにとって
必要な場所になることが大切

寄付という厚意と、ボランティアの力に支えられる東京おもちゃ美術館は、継続的にボランティアに参加する人が多いという特長が挙げられます。楠さんは活動のやりがいをこう話します。

声をかけた楠さんに作品を見せる小さなアーティスト

「子どもたちの発見や反応を引き出せた時や、保護者の方にも安心して過ごせてもらえた時は、なんだか世の中の役に立てている気がしてうれしいですね。また、おもちゃ学芸員にはベーゴマやゴム鉄砲などおもちゃの専門家も多く、新たな知識を得られます。同じベクトルで活動するおもちゃ学芸員との交流も楽しく、東京おもちゃ美術館での活動は私の生活の一部になっています」

楠さんのように感じているおもちゃ学芸員が多いといいますが、ボランティアを単発で終わらせることなく、継続してもらえるような環境づくりをするにはどうすればいいのでしょうか。橘高さんは、社会にもボランティアにも必要な場所であり続ける工夫が大切だと言います。

「私たちは、養成講座を受けていただいたり、赤いエプロンを購入してもらったり、参加のハードルを少しだけ上げて、それに賛同してくださる思いの強い方を募っています。そのうえで、この場所がおもちゃ学芸員の方にとって必要な場所であり続けるための工夫が大切です。外部講師を招いての研修やサークル活動などを通しておもちゃ学芸員同士のつながりも大事にしています。アニマシオンという言葉があり、ワクワクやドキドキを表すのですが、ぜひおもちゃ学芸員の方にはワクワクやドキドキを伝えるアニマトーレになっていただきたいです」

多様なおもちゃ学芸員の皆さんの活動のおかげで、多世代の交流がおもちゃを真ん中に広がっています。様々な場で「アニマトーレ」になってください!東京おもちゃ美術館 施設運営部長 橘高 春生さん ボランティアとは、自分ができることで相手が喜んでくれることを確認できる場所。それがうれしくて、私にとってボランティアはもはや生活の一部です。おもちゃ学芸員 楠 慎也さん
多様なおもちゃ学芸員の皆さんの活動のおかげで、多世代の交流がおもちゃを真ん中に広がっています。様々な場で「アニマトーレ」になってください!東京おもちゃ美術館 施設運営部長 橘高 春生さん
様々な場で「アニマトーレ」になってください!東京おもちゃ美術館 施設運営部長 橘高 春生さん ボランティアとは、自分ができることで相手が喜んでくれることを確認できる場所。それがうれしくて、私にとってボランティアはもはや生活の一部です。おもちゃ学芸員 楠 慎也さん