法政大学
キャリアデザイン学部
キャリアデザイン学科

坂爪 洋美教授

なぜ人生に
キャリアデザインが大切なのか

なぜキャリアデザインを学び、
自分の進路や仕事を選ぶことが大切なのか。
より良いキャリアを積み重ねるためには
どのような心掛けや意識が大切なのか。
法政大学キャリアデザイン学部の
坂爪洋美先生にアドバイスいただきました。

プロフィール・略歴

慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 博士(経営学)。民間企業での勤務ならびに和光大学を経て2015年4月より現職。専門は産業・組織心理学。著書に『シリーズダイバーシティ経営 管理職の役割』(中央経済社、2020年)、『学生と企業のマッチング:データに基づく探索』(法政大学出版会、2019年)、『キャリア・オリエンテーション:個人の働き方に影響を与える要因』(白桃書房、2008年)など。その他、日本労働研究雑誌編集委員、日本労務学会会長などを歴任。

「何がしたいのか?」だけではなく
「どう働きたいのか?」も考える

現在、大学ではもちろん、中学校・高校においても、キャリア教育が行われていますが、キャリア教育では、「自分がどのような仕事をしたいのか」をクリアにすることが1つの焦点になります。すると、自分が何をしたいのかわからない……と不安になる人も多いと思いますが、やりたいことが無ければ働けないというわけでは決してありません。

例えば、海外で働きたい、入社後早い段階から仕事を任されたい、自由な雰囲気の職場で働きたい、なるべく残業が少ない仕事をしたい、転勤はしたくないなど、労働条件などで仕事を選択することも、一つの解となりえます。その際、自分にとって大切な軸を複数持てると良いでしょう。例えば、野球が好きだからスポーツメーカーに行きたいと思っても、すべての人が就職できるわけではありませんし、仮に入社しても、スポーツと全く関係ない仕事をすることもあります。そのため例えば、「やりたい仕事」といった一つの軸に縛られるのではなく、選択肢を増やすことで、仕事を選びやすくなります。

このように自分の働き方について自分なりの答えをもって選択することで、働いていく中でうまくいかないことや嫌なことに直面した際、「あの時、自分で考えて選んだのだから頑張ろう」と腹をくくることができます。また、「この選択は失敗だった」という結論に達した際も、人のせいにせず、当時としてはベストの選択をしたけれどうまくいかなかった、次の選択をする際には何をどう変えればいいのかと再考できます。私たちのキャリアは、大小さまざまな選択の連続で、より良いキャリアを積み重ねるためには、選択するたびに自分で考え、徐々に選択の腕を上げ、自分が納得のいく選択を繰り返せるようになることが大切です。

また、「どう働きたいのか」という正解のない問いを前にすると多くの人は不安になります。この不安があまりにも大きいと、選択を誤ることがありますが、同時にこの不安はキャリアを歩む中で切っても切り離せないものです。キャリアデザインを学び、何をどう考え、決めればいいかを見通すことで、不安を軽減し、より良いコンディションで選択を行えるようになります。

一般企業から大学院、研究者。
キャリアは実はつながっている

キャリアについて説明するために、私自身のキャリアをご紹介します。現在キャリアについて研究している私ですが、高校生・大学生の時に、現在のキャリアを描けていたかというと、決してそんなことはありません。特にやりたいことはなく、数年働いて結婚退職するんだろうと漠然と想像していました。それでも、自分には向いていないことは明確に分かっていて、そうした仕事を選んで自分自身が苦しくなる状況は避けようと決めていました。会社訪問などで実際にそこで働く方からお話を伺うと、自分に合う、合わないがよくわかるのと、相手の方の反応から、自分自身がこの会社に求められているか、いないかも分かりました。それを繰り返しながら自分が希望する条件にマッチする会社を絞り込み、最終的に人材系の民間企業を選びました。

実際に働き始めてみると、想像以上に仕事の大変さが身に沁み、5年ほど勤めたところで少し休みたいと感じました。周りをみても仕事に疲れている人が多いことに気づき、そうした人たちの心のケアがしたいと思い、大学院に進学しました。そこで、初めて勉強の楽しさを体験し、研究者になりたいと思うようになり、博士課程に進学し、大学教員になりました。

実は、研究者にはなりたいと思ったのですが、教員になりたいとは思っていませんでした。しかし、大学で研究することと教育をすることはセットなので、チャレンジしたわけです。実際やってみると徐々にうまく講義もできるようになり、苦手だと思ったこともうまくいくことを実感しました。思えば、企業で働いていた時も、営業という仕事に不安はありましたが、周りの人のサポートもあり、一生懸命取り組むことで、成長も感じることができました。

現在、産業・組織心理学の授業を担当していますが、実は新卒で入った会社での経験が今につながっています。転職希望者や企業の人事部の方たちとの面談をするなかで、人のキャリアに興味を持ったことで、次の選択肢が広がったわけです。

キャリアデザインとは
人生を描き切るものではない

私のこれまでのキャリアをご紹介し、お分かりいただいたかもしれませんが、キャリアデザインとは、一度に人生そのものを描き切ることではありません。キャリアデザインするうえで大切なことは「いま自分はどう考えているのか」を考えることです。加えて、その時の考えにずっと縛られている必要もなく、人生の要所要所で立ち止まっては、その時点での「いま」を見ればいいのです。先が見えないこともあるかもしれません。しかし大切なのは前を向いて前に進むことです。選択の結果、仕事については希望通りではなかったけど、次の選択肢を用意してくれるような人とつながるなど、偶然の出来事にも大きく左右されます。自分の可能性を自分で閉じてしまわないように、前に進んでほしいと思います。

また、時には目の前の仕事に没頭し、成果をあげることで自分自身の自由度を高め、次のキャリアに生かすことも必要です。社会に出ると、「これからどうしよう」と迷う時期と、仕事に没頭する時期が交互に訪れるとイメージしておくといいでしょう。それでも自分のキャリアが不安な人は、従業員のキャリア開発やキャリア研修が充実した会社を選ぶことも一つの解です。

最後に、キャリアデザインを行ううえでとても大切なことは、自分のキャリアについて相談できる人を見つけておくことです。一番身近にいるはずの友達同士ではそうした話ができないということを耳にします。キャリアの相談相手は親であることが多いのですが、例えば、教員、アルバイト先の先輩や、大学のキャリア支援室の職員など、必ずしも普段の自分自身をわかってくれている人や、仲良しである必要はありませんので、だれかキャリアについての話を聞いてくれる人を見つけてみましょう。自分の頭で考えても分からなかったことが、誰かに話すことで考えがまとまったり、新たな気づきにつながります。キャリアデザインというと少し難しく聞こえるかもしれませんが、まずは働く自分や、大学・大学院や専門学校などに進学する自分をイメージして、誰か身近な人に話をしてみることから始めてみませんか?