ナンバーワンになれる山
悩んで見つけた
クイズプレーヤー
伊沢 拓司さん
インタビュー:古川遥

プロフィール・略歴

伊沢拓司(いざわ・たくし)
1994年生まれ。クイズプレーヤー、(株)QuizKnock CEO。東京大学経済学部卒。高校時代に「全国高等学校クイズ選手権」で史上初の個人2連覇を達成。2016年、東京大学在学中にwebメディア「QuizKnock」を立ち上げ編集長を務める。テレビ番組に出演するほか、登録者150万人を越える同YouTubeチャンネルの企画・出演も行う。

このインタビューは学生記者の古川遥が担当しました。

現在の仕事について

「楽しい」から始まる学び
みんなで

「現在の仕事は何ですか?」と聞かれたら、「クイズプレーヤーです」と答えるようにしています。クイズにのめり込むようになったのは中学生の頃からで、大人になった今でも、僕にとってクイズはめちゃくちゃ楽しい遊びです。

知ることがとにかく好きになったんですよね。知らない言葉を見聞きしたら、気になってすぐに調べてしまいます。もちろん“知る”ことは面倒くさいんだけれど、繰り返すうちに「面倒くささよりも、その後の見返りのほうが大きい」ことを体が覚えてくる。知ると楽しいし、楽しいからもっと知りたくなる。“知る”と“楽しい”をループするおもしろさを一人でも多くの人に伝えたいという思いが、自分のキャリアの軸になっています。

このループは“知る”の側からしか入れないのがやっかいで、たとえば学校の勉強とか、その人がそもそも関心を持てない分野については、自発的にもっと知りたいとは思えないものです。だから、“楽しい”から入ってもらえるような工夫をしています。

僕が代表を務める会社「QuizKnock」がYouTubeにアップしている動画は、クイズで遊ぶことがメインのエンタメ動画で、真正面から何かを教えようとしているものではありません。でも、笑いながら視聴しているうちに1個、2個それまで知らなかった単語を知れたら、それはまさに“「楽しい」から始まる学び”ですよね。

クイズ関連のお仕事、Webメディアの運営、執筆業。僕の仕事内容は多岐にわたりますが、これらはすべて、学ぶ楽しさを伝えるための手段です。

今の仕事に就いたきっかけ

“「楽しい」から始まる学び”
で活路

東京大学在学中、クイズ番組「東大王」での活躍で
知名度が上がった=TBS提供

クイズでごはんを食べていくことになるとは思ってもいませんでした。将来は研究者になるつもりで東大の大学院に進学しましたし、性格的にも自分は人の下でブレーンとして働く方が向いているタイプ。“「楽しい」から始まる学び”というコンセプトを大学院時代に思いつかなかったら、起業なんてしていなかったはずです。

大学4年生のとき、好きなことで少しお金を稼げたらいいなと軽い気持ちで始めたのが、クイズで遊びながらニュースを学ぶWebメディア「QuizKnock」。勉強する時間が欲しかったので、アルバイトするよりもPV(ページビュー)で稼いだ方が効率がいいと思ったのですが……ちょっと考えが甘かった。最初は全然伸びませんでした。奨学金ももらっていたけど、日々の暮らしにも苦労していた期間が長く続きました。

苦しい思いもしたけれど、試行錯誤しながら好きなものを極めていく過程は、キャリア選択の場でも真剣に将来を考え、何かをつかむきっかけになりました。学ぶことを好きになりたいけど、学びに踏み出す最初の一歩が億劫(おっくう)だという人は多いですよね。“「楽しい」から始まる学び”というコンセプトが出来たことで、我々が狙う需要が明確になり、適切な供給ができると確信できたので、僕はこの道を行く決心がつきました。

「QuizKnock」のメンバーと=伊沢拓司さん提供

これまでの人生の山と谷

高1で高校生クイズ優勝
怖いもの知らず

高校時代、全国高等学校クイズ選手権で2連覇を達成した=伊沢拓司さん提供

人生で怖いもの知らずだった時期は、中学3年生のとき。高校時代、「全国高等学校クイズ選手権」をテレビで見ていて、「これは自分も優勝できるな」と思ってから翌年実際に優勝するまでの1年間は本当に絶好調で、対策のために1日12時間クイズをやって、自分が「怖い」と感じる要素を全部潰していました。

当時も今も、誤答を恐れないことが僕の強みになっています。特にテレビだと、間違えるのって恥ずかしいじゃないですか。だけど僕は、間違えても全然いいと思えたので、今があるなと思います。

昔、「知っていることがそんなに偉いのか」って小学校の先生に叱られたことがあるんです。頬杖ついて、「みんなできないのかよ」みたいな態度で授業を受けていたからなのですが、ハッとしました。僕はこの授業のことはわかっているつもりかもしれないけど、世の中にはまだたくさん知らないことがある。一つのものを知っているかどうかなんて、ほんとに些細(ささい)なことだなと。だから、間違っても恥ずかしくはない。この出来事が、間違えることを恐れない今の姿勢につながっています。

クイズ王になっても、この世のすべてを知っているわけではありません。誰が何を知っているかはすごくランダムで、勝ち負けは相対的なもの。たまたまそのとき出題された数問の答えを知っていただけのことですから。

小学校に入ってすぐに勉強が苦手になったり、どうやってもクイズで勝てない高校の後輩の存在に落ち込んだりと、人生の谷は何度か経験しましたが、一番つらかったのは東大の大学院に入ってからの一年間です。

勉強する時間を確保するために始めたWebメディア「QuizKnock」は、毎日必ず3本記事を更新しているにもかかわらず、PVが伸びなくてお金にならない。研究室では、レベルの高い人間だらけで全然ついていけない。ついていけないならもっと勉強しなければいけないのに、「QuizKnock」にアップする記事の執筆に追われてそれもままならない。

貧乏な上に、勉強が十分にできていない罪悪感も重なって、すごく苦しかったです。研究者になるのか、クイズでいくのか。突き詰めて考えずにやっていたから、どちらも中途半端でした。

クイズでテレビに出るようになってからは知名度が上がって、少しずつ「QuizKnock」で収益が上がるようになりましたが、それはそれでつらかったです。研究者の道を諦めるということは、自分の至らなさを完全に受け入れるということだったので。

これから目指すこと

常にナンバーワンを
探せる自分でいたい

「日本語」「動画を主とするエンタメコンテンツ」「“『楽しい』から始まる学び”を伝える」。僕はこの細かい制限がついた中でなら、自分がナンバーワンになれると思えたから起業しました。

ナンバーワンになれる条件を勝手に設定したといえばそれまでですが、全く同じジャンルで僕よりできる人が出てきたら、すぐにこのお山の大将の座は明け渡して、また新しい山を探しに行くつもりです。

常に自分がナンバーワンになれる山を探すといっても、これは別に、職種は関係ありません。たとえば企業の経理をしている人は、他人が知らないであろうその会社の財務状況を把握しているという点では現状においてその人こそが一番その仕事にふさわしい人ですよね。ナンバーワンになるためのジャンルの切り分け方は、羊羹(ようかん)を切り分けるように自分の好きにしてよいものだと思っていて、自分の強みをそういった観点から探ってみるのもいいのではないでしょうか。

かくいう僕だって、まだキャリア選択の最中です。他の山が見つかれば、エッセイストになるかもしれないし、もしかしたらどこかの企業に勤めることだってあるかもしれません。

オフの過ごし方+生活と仕事の両立

フットサルやサウナで
リフレッシュ

2020年で丸一日お休みだったのは、正月の2日間だけでした。ワーク・ライフ・バランスという言葉もありますが、僕は自分自身がコンテンツになっているので、ワークとライフが不可分。切り分けがちょっと難しいから、オフの日を作るというよりは、オフの時間を作るという感覚です。

土曜の朝はフットサルをする。移動時間に音楽を聴く。たまにサウナや筋トレで汗を流す。隙間時間にリフレッシュすることで、精神的な充足感を得ています。失敗を反省する時間も、すごく好きです。失敗を知見として蓄えておけば、同じ失敗はしなくなるし、次はもっと上手くできるようになりますから。

若者へのメッセージ

まずは「自分が何をしたいか」
を考えてみて

今は、ずっと一つの会社で働くことが当たり前ではない時代です。職業のボーダーも無くなってきて、クイズで例えるなら、択一回答ではなく自由回答になっている感じ。それゆえの難しさがあるので、やはり早めにキャリアについて考えることは有効です。

まずは、自分がしたいことを明確にして、その後、自分に合う職業の型を考えてみるといいと思います。すでに社会にある型でもいいし、僕のように新しく型を作ってもいい。とりあえず既存の型にはまっておいて、そこで別の型を模索するのももちろんありです。大事なのは、「何になりたいか」より「何をしたいか」で考えたほうがよいかな、という点。既存の職業のみから逆算することは、必須ではありません。

選んだ型が違って失敗したなと思っても、逃げ道はあります。僕もそうでしたが、迷いながらでも行動していれば次の道は見つかるものです。一方で、迷ってばかりで動かずにいると、どこにも行けません。

型にはまるもはまらないも、どの型を選ぶかも、自由です。「こうあるべき」という固定観念を捨てて、ぜひ自分らしいあり方を見つけてください。