食でみんなを笑顔に  
回り道…支えられ独立
料理研究家
丸山 寛子さん
インタビュー:大谷津元

プロフィール・略歴

丸山寛子(まるやま・ひろこ)
1984年生まれ。フリーランスの料理研究家。食品ブランドの立ち上げや、シェアハウスの運営も行う。大学卒業後、給食会社に就職して7年間働いた後、フリーに。食や料理の分野から、人を笑顔にすることを目指し活動を続けている。

このインタビューは学生記者の大谷津元が担当しました。

現在の仕事について

食品ブランドを立ち上げ
生産者を応援

運営するシェアハウスで、仲間と食卓を囲む丸山さん
(手前左から2人目)

フリーランスの料理家として、食に関わる幅広い仕事をしています。2020年の冬にはオリジナルの食品ブランド「KASANEプロジェクト」を立ち上げ、季節のフルーツの加工品やクラフトビールの販売を始めました。

7年間の会社員生活の後、2016年に独立しました。最初に始めたのは、現在も続けているシェアキッチンハウス「mogmogはうす」の運営。そこから料理教室やワークショップ、食材のPRやレシピ開発など取り組みを広げました。

長年、知識や経験を蓄えてきて、信頼できる仲間もできました。その集大成で、新しいスタートラインでもあるのが今回立ち上げた「KASANEプロジェクト」なんです。

私自身や生産者さん、デザイナーさん、手に取ってくれた方、ビールを醸してくれた職人さん、お菓子やジャムなどを開発してくれた友人たち、いろんな人が「手と手を重ね合うように」という思いを込めました。全国の生産者さんを応援して、それぞれをつなげて、日本の「旬」をバトンのように手渡していくコンセプトです。

今の仕事に就いたきっかけ

やりたいことに向き合い
30歳で決意

仲間から寄せられた誕生日を祝う寄せ書き

子どものころから食や料理が好きでした。父の影響でしょうか。家庭では父が料理をしていました。毎日持たせてくれたお弁当が印象に残っています。ふたを開けると、ブロッコリーやトマトが入っていて、いつもカラフルだったんです。高校は女子が多かったので、友達の前で食べても恥ずかしくないものを作ってくれていたみたい。大人になり、その気遣いと大変さに改めて気づきました。

実は若いころ、キャビンアテンダントを目指したこともありましたが、挫折しまして。再度自分を見つめなおし、食の仕事がしたくて大手の給食会社に入社しました。多くの部署があり、念願の社員食堂で働いた時期もありました。でも最終的には人事異動でビル管理の仕事を任されることになり、30歳で退職しました。大切な仕事ですが、「食や料理に携わりたい、人の笑顔を見たい」という自分のやりたいことに向き合い、独立を決意しました。ちょうど30歳でした。

独立後まず、会社員時代にローンを組んで買った持ち家をシェアハウスにしてオープンしました。計算したり考えすぎたりするとうまくいかないタイプなので、とにかく行動してみたんです。

これまでの人生の山と谷

軸がなく絶不調……
出会いが背中を押した

キッチンで食材を手にする丸山さん(左)

今から3年くらい前、絶不調の時期がありました。フリーランスとして独立したものの、自信がなくなった時期です。どんな仕事でも請けてしまい、軸もありませんでした。

特に、名だたる料理家やシェフがひしめく東京でやっていくことを困難に感じていましたね。当時、「都市から離れた地域ならうまくいくかもしれない」と思って移住も考えました。

でもそこで出会った人から、「丸山さんは移住するより、全国あちこちを飛び回って、いろんな食材を追い求めるほうがきっと輝くよ」と言ってもらえて、背中を押されました。改めて東京を拠点に、私自身が各地の生産者を結ぶかたちで勝負しようと思えたんです。

絶好調と言える時期は、まさに今。自分のブランドを立ち上げたこの時だと感じています。

実際には2020年にコロナ禍もあって、一時期売り上げもほとんどなくなり、苦しい状況でした。でも、それがバネになります。今は自分のやりたいことができています。

ブランドを立ち上げ、全国の皆さんや信頼できる仲間と協力して作品を作っています。また、シェアハウスという居場所で入居者の方たち、多様な形で関わってくれているご近所の皆さまが私を支えてくれます。点と点がつながっていって、こんなにうれしいことはないですし、やりがいを感じています。

これから目指すこと

みんなの力を借りてチャレンジ
そして恩返し

夢はたくさんあります。例えば、日本のフルーツを海外に持っていくとか、その逆に海外から持ち込むとか……。そのためにも、目の前にある仕事を一つ一つ丁寧に仕上げて、周りの方をハッピーにできればいいなと思います。

正直まだ手探りの状態ですから、まず「KASANEプロジェクト」を事業として成功させることが目標です。一人ではなく、みんなの力を借りるチャレンジ。責任を持ち、生産者さんやデザイナーさん、手を取り合う仲間たちにお金というかたちで恩を返したいです。

お金が目的ではありませんが、お金が回ればそれが潤滑油になり、もっといい仕事ができて、社会にインパクトを与えることができるはず。事業として成り立たせることが私のこれからのミッションです。ブランドの発起人として、明るい未来を描き、唱え続けながら、きちんと地に足を着けて仕事をしていきたいですね。

オフの過ごし方+生活と仕事の両立

P C・スマホは開かない
自分でルール

食とか料理って、私たちが暮らすこの世界にあふれているので、考えだしたらきりがないんですよ。例えばランチを食べに行ったら、「コスパがいいな」「この味付けはいいな」とか気になっちゃう。だから「オフ」にするのは難しいですよね。境目が存在しなくて、それが楽しいところでもあるんですが……。

切り替えるために、私は簡単なルールを自分で作っています。例えばお風呂に入った後はスマートフォンやパソコンは開かないようにすること。それと、趣味のホットヨガをしている間だけは考えることをやめて、「無」になります。

仕事で各地に遠征することも、実は息抜きにもなります。繁華街のない地域に泊まれば、自然と早寝早起きの健康的な暮らしができて、リフレッシュにもなる。温泉に立ち寄ったりもしますね。

若者へのメッセージ

ときめく気持ちに素直になって

仲間と食卓を囲む丸山さん(中央)

一番お伝えしたいのは、ちょっとでもやりたいと思ったことは、ぜひやってみてほしいということです。

コロナ禍や緊急事態宣言があり、「勇気がなくてやらないこと」と「環境的にできないこと」は違うと実感します。私自身「なんでもっと早くやらなかったんだ」と思うことがありました。だから、やろうとすればできることは、勇気を持ってやってほしいです。

踏み出すには迷いや不安、過去へのこだわりでためらうこともあるかもしれません。私も自信がないタイプでしたが、ある時、「過去や他人は変えられないけど、自分と未来は変えられる」という言葉を知り、本当にそうだと感じています。

私も回り道をしましたが、当時は自分に素直になって、それぞれに100%の力で立ち向かいました。今、回り道と思えたものもすべてつながった感覚があります。皆さんもワクワクする気持ちやときめく気持ちに素直になって、やりたいことに全力で取り組んでみてほしいです。