女性初の役員
私を成長させた「一大事件」
証券会社執行役員
絹川 幸恵さん
インタビュー:古川遥

プロフィール・略歴

絹川幸恵(きぬがわ・さちえ)
1964年生まれ。みずほ証券執行役員(リテール・事業法人部門 プライベートバンキング統括)。大学卒業後、富士銀行に入行。1994年、富士証券(現・みずほ証券)設立と同時に異動し債券トレーダーに。2004年に40歳で市場営業第4部長、ウエルスマネジメント部長、成城支店長などを歴任の後、2017年に同社で女性初となる執行役員(名古屋支店長)に。

このインタビューは学生記者の古川遥が担当しました。

現在の仕事について

経営者たちを支援
世界を変えるお手伝い

女性活躍について、社外で講演をすることも

みずほ証券の役員として「プライベートバンキング」という業務を統括しています。特別な富裕層の方向けに金融サービスを提供する仕事です。具体的には、上場企業のオーナー経営者に加え、金融資産30億円以上の富裕層の方々の資産運用・管理やビジネス展開のお手伝いなど。お客様に一番近い立場でお話をうかがい、課題・ニーズにみずほグループの様々な部署の力を結集して対応しています。「世界を変えよう」「社会を良くしよう」と事業を立ち上げ拡大している経営者の皆さんの新しいチャレンジをお手伝いができている実感があり、大きなやりがいになっています。

女性初の役員として、「女性だから」と特別に意気込むわけではないですが、選ばれたからには誇りと自覚を持って働きたいと思っています。結果として、後に続く女性たちの励みになればという気持ちもあります。社会で活躍する女性がもっともっと増えてほしいですね。重要な地位に女性が進出できていないのは日本の課題ですし、私のような立場からも発信すべき大きなテーマだと考えています。

仕事のモットーは「とにかく楽しくやる」です。自分も周囲も楽しんだほうが良いパフォーマンスを発揮できるし、良いチームになると思っています。

今の仕事に就いたきっかけ

男子と同じように働きたい
その一心で

大学では勉強ばかり頑張ったというわけでもなく、国際交流をする学生団体で活動したりしていました。就職活動の時期はちょうどバブル全盛期、金融機関が人気でしたね。当時は、男女雇用機会均等法が施行されて2年目というタイミング。「本当に男子と同じように就職できるんだろうか」と思いながらも、今まで一緒に勉強してきた男子たちと同じ職場で働きたいという一心で必死で就職活動をしました。そしてなんとかみずほ銀行の前身の一つ、富士銀行に入行しました。

当時は男女の扱いについてまだ不条理な違いが残っている部分もありましたが、とにかく仕事自体が面白くて、頑張っていたらチャンスをもらえました。転職は経験しなかったですが、転職したのと同じくらいにいろいろな部署への異動を経て、今のポジションに登用されました。

これまでの人生の山と谷

最年少で抜擢
トラブルで降りた部長職

キャリアチェンジのタイミングもありました。出産で育児休業から復帰後、時間の融通が利く企画の仕事を長くしていました。でもある時、「営業に戻ってみないか」と上司から声をかけられたんです。営業はずっと離れていたので、青天の霹靂(へきれき)でした。今思えば、企画でやれることはやり切って視野が狭くなっていた私の将来を考えた当時の上司が一歩踏み出すために背中を押してくれたんだと思います。自分が得意ではない営業分野の部長になったことで、部下を頼ることを学び、そのおかげで管理職として大切なマネジメントの基本を身に着けることができました。

名古屋支店長時代の思い出。送別の際に、
部下たちがアルバムをプレゼントしてくれた

更に私にとっての「一大事件」は、当時最年少で抜擢(ばってき)された部長職を、トラブルで降りることになった経験です。周囲にいた人の多くが「すっ」といなくなり、本当に私を大事に思ってくれる方々だけが残って支えてくれました。その時、仕事は一人でしているのではなく周りの人に助けられていると実感、その後は周囲に感謝の気持ちを持って仕事に取り組めるようになりました。この経験がなければ、今、役員に登用されるほどの成長はできていなかったと思います。

最も思い出深いのは、30代後半のころ、当時、日本で初めての金融商品を作り出すプロジェクトを、リーダーシップをとって実現させたことです。新聞の一面にまで取り上げられて話題になり、うれしかったですね。記念になりました。

名古屋支店の部下たちとの集合写真

これから目指すこと

今のポジションだからこそ
できること

これからは、執行役員という今のポジションだからこそできる仕事をやりたい、と思っています。日本の経済を動かしているような経営者の方に出会うチャンスもありますので、そういった方たちから学び少しでもお役に立つことで、社会に何らかの貢献ができればいいと思っています。

そうした意識で日々取り組むことで、この歳からであっても、更にキャリアの幅を広げられる気がしています。

また、女性である自分だからこそできることを考え、みずほ証券の中で女性のネットワークを立ち上げました。女性社員たちのキャリアを通じた体験を共有し、女性社員にちょっとした勇気や元気、エネルギーを与えたいと思い、取り組んでいます。

オフの過ごし方+生活と仕事の両立

育児は仕事に
マイナスじゃない

オフは自己研鑽(けんさん)を含めて習い事をしてみたり、美術館に行ったりしています。最近「ワインエキスパート」の資格を取りました。

自己研鑽のために始めたワインの勉強。
資格を取得するまでに

出産や育児を経て働いてきましたが、今は子どもも就職し、私の手を離れました。仕事と子育てとの両立は大変でしたが、私が大切にしていることは「完璧にやらない」ことですね。掃除とかを「まぁ、いっか」で済ませることも大事です。あとは、私はベビーシッターさんを頼んでいました。人に頼るのもいいと思います。

育児って仕事にマイナスだと捉えられがちですけど、育児を通じてストレスを発散したり、気持ちのバランスをとったりもできます。それに、育児って究極の自己マネジメントですから、そこで身に着けたスキルが仕事に生きたりもします。私は息子から「うちのママはかっこいい」と言ってもらえるようになりたいと思い、覚悟を持って仕事をしてきました。一緒に過ごせる時間に関わらず、しっかり子供と向き合ってさえいれば、子どもはちゃんと育つものだと思いました。

若者へのメッセージ

夢は大きく いろんな冒険を

若い人には先入観を持たずに、いろんな冒険をしてほしいですね。私も、もっと冒険したらよかった、と今でも思うんですよ。

みなさんと時代は違いますが、一つだけ言えることは、自分が思い描く将来像に、制約を設けないでほしい、ということです。夢は大きく描いてください。

若いうちは何でもできると思って、いろんなことに挑戦してほしいと思います。