「アイドルマスター」
シリーズ統括 素直に考え抜く
ゲーム会社 総合プロデューサー
坂上 陽三さん
インタビュー:古川遥

プロフィール・略歴

坂上陽三(さかがみ・ようぞう)
1967年生まれ。バンダイナムコエンターテインメント 「アイドルマスター(アイマス)」シリーズ総合プロデューサー。芸大卒業後、映像プロダクションに入社。1991年にナムコ(現在の同社)に転職し、ビジュアルデザイナー、プロデューサーなどを歴任。これまでに担当したタイトルは15周年を迎えた「アイマス」シリーズのほか、「ファイナルラップ」、「リッジレーサー」シリーズなど。

このインタビューは学生記者の古川遥が担当しました。

現在の仕事について

戦略描いて展開
プレイヤーが喜ぶサービスを

総合プロデューサーとして、アイドルプロデュースゲーム発のコンテンツ「アイドルマスター(アイマス)」シリーズ全般を担っています。現在は5ブランドを展開しており、それらを統括する立場です。プロデューサーは全体的な戦略を描き、進めていく仕事で、各タイトルのコンセプトの練りこみから始まり、スマートフォン向けゲームアプリケーション、家庭用ゲーム、ライブ、アニメなどの展開を考えます。

アーケードゲームでスタートした「アイマス」は2020年7月に15周年を迎えました。このゲームはプレイヤー自身がアイドルのプロデューサーになることができます。ゲームの持つインタラクティブな(相互に作用する)力を強く意識して、ゲームの世界観を追体験できるイベントを開催するなどの工夫を取り入れながら、遊ぶ方が喜んでくれるサービス展開を常に考えています。

仕事をする上で大事にしていることは、単純に、素直に考えることです。商品開発のためにニーズを探る時も、複雑にとらえすぎないようにしています。「誰もがしたいことってなんだろう?」と考えます。例えばですが、「どこでもドア」を発売できたら、世界中の70億人がほしがりますよね。それくらいシンプルに考えるようにしています。

今の仕事に就いたきっかけ

映像からゲームへ
「パックマン」で驚いた

Xbox 360「アイドルマスター ライブフォーユー!」の発表イベントに登壇=バンダイナムコエンターテインメント提供

子どものころから映画や漫画が好きで、高校生くらいまでは自分で漫画も描いていました。とにかくエンターテインメントに携わりたいと思っていましたね。映像業界に入ろうと漠然と考えて芸大に進学し、卒業後は映像プロダクションに入社しました。スタッフとしてCM制作やテレビのドキュメンタリー制作などに関わりました。

忙しく働いていたのですが、ある時、NHKの番組で、一匹のチンパンジーが「パックマン」というゲームで遊んでいる姿を見て、驚いたのです。動物でも楽しく遊べるのだから、これは全人類が楽しめるエンタメだ、すごい!と思いました。

そして考え方を変えれば、ゲームも「映像」コンテンツの一つだと気付いたのです。当時から、日本で作られたゲームは世界で売れているコンテンツでした。世界に通用するエンタメに関わりたい思いで転職を決めました。

最初は知人の誘いがあり、同業のコナミさんに応募するつもりだったのですが、間違えて同じカタカナ3文字のナムコに電話をしてしまって…。しかし、その時の人事の方の対応がとても丁寧で、そのまま入社が決まりました。「パックマン」はナムコのゲームだったので、結果オーライなのですが(笑)。

入社してしばらくはビジュアルデザイナーとして働き、アーケードゲームの「ファイナルラップ」や家庭用ゲームの「リッジレーサー」などに関わりました。その後、様々なゲームのプロデューサーに任命されます。

これまでの人生の山と谷

赤字のタイトルで落胆
身を引くことも考えた

振り返ると、ビジュアルデザイナー時代は良い時期でしたね。毎年1本ずついろいろなゲームに関わり、自分の中に着実にノウハウを積み重ねました。良い仲間にも恵まれ、徐々に裁量も与えてもらえるようになり、チームビルドをして、開発体制を作り上げて、自分たちで物をつくることができるという自信がつきました。あのころは、朝、会社に来て、気が付いたら夜。ずっと集中していました。

その後、プロデューサーに任命されたのですが、最初に手掛けたゲームタイトルが赤字になった時は落ち込みましたね。会社として初めて挑戦するジャンルだった上に、海外に向けたタイトルでもあり、ノウハウがない中での開発で、3年かけて懸命に作ったのですが…。結果は一部の人には好評だったものの、世界的なヒットには全く届かず、非常に苦しかったです。

赤字を出してしまったことに責任を感じ、身を引くことも頭によぎっていた頃、「アイマス」初の家庭用ゲーム展開にあたってプロデューサーを命じられることになりました。“最後のご奉公”のような気持ちで30代後半で引き受け、これまでの反省から、どんな人が遊んでくれるかを考え抜いて作りました。それが成功して、今に至ります。

これから目指すこと

やりたいことは、
今でも悩み続けている

まずは「アイマス」を遊んでくださる方々に向け、より良いサービスを展開していきたいと思っています。時代に合わせて新しいコンテンツの提供を考えたいです。

さらに「アイマス」のようにIP(知的財産)になる人気コンテンツを、今後また新たに生み出したいという気持ちがありますね。それはゲームかもしれませんし、アニメなどそれ以外の形かもしれません。

僕自身が個人として、本当にこれからやりたいことは何なのか、実は今でも考え続け、自問自答しています。例えば独立の道もあれば、後任を育てる道もあるかもしれませんし、新しいタイトルを手掛けたい気持ちもあるし…今でもまだまだ悩みますね。

 

オフの過ごし方+生活と仕事の両立

好きなことを仕事に
時代の変化をとらえたい

あまり良くない言い方かもしれませんが、プライベートはこれまで、基本的にありませんでした(笑)。

というのも、エンタメという好きなことを仕事にしてきたので、「オフ」との境界があいまいでした。しかし、この数年は時間ができたので、自分が絶対にやりそうになかったゴルフを始めてみました。やってみると楽しいです。

ほかには、さまざまな映像配信サービスで映画やドラマ、アニメなどを鑑賞していますね。昔から映像が好きなので、時代の変化を映像作品から自然に感じ取り、仕事に生かすこともできます。だから好き嫌い関係なく、幅広く見るようにしています。

若者へのメッセージ

焦らずに、着実に積み上げて

焦ってはいけない、ということです。焦らずに、着実に積み重ねるようにしてください。

自分のやりたいことやなりたいものは、常に増えていくし変わっていきます。だからこそ、できることを一つ一つやっていくことで、結果的に自分のやりたいことが将来できるようになるのだと思います。

若いころは特にそうですが、少しでもやりたいことからずれると、「妥協」だと感じてしまうことも多いでしょう。でも、それは自分でどちらに進むべきか「選択」しているのだと考えるようにしてみてください。悩むより、その都度選択したことに取り組むという意識をぜひ持ってください。

©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.