構造物を造る
みんなで造る それが楽しい
建設業
村上 麻優子さん
インタビュー:小原悠月

プロフィール・略歴

村上麻優子(むらかみ・まゆこ)
1984年生まれ。鹿島建設で地下鉄の新駅、駅前の広場など土木工事の現場監督を務める。建設業には小学生の時から興味を持ち、大学卒業後、鹿島建設に入社。2017年に出産・育休後、職場復帰。

このインタビューは学生記者の小原悠月が担当しました。

現在の仕事について

現場監督
駅の新設工事などに携わる

土木工事の現場で働く村上さん(右)

駅前の広場や地下鉄の新駅、高速道路といった大きな構造物を造る土木工事の現場で現場監督をしています。一つの構造物を造るには、私たちゼネコン社員だけでなく、周辺住民の方、発注者、協力会社、警察などたくさんの人と関わることになります。そこで皆さんの要望を聞きながら、工事の進め方を協議するのが私の仕事。工事に関する契約、見積書の作成のほか、全体のお金の管理も担当しています。

入社して最初に配属されたのは、研究部門です。岩盤の中の水の動きや止水工法を課題としていましたが、現場に出たいという思いが消えず、5年目に今の部署に異動しました。「みんなで協力して大きな構造物を造りたい」というのが、子どもの頃からの私の夢でした。

自分が携わった構造物がたくさんの人たちに利用され、生活の役に立っている様子を見るのは感慨深いものがあります。後々まで残るものを造ることができるのは、この仕事の大きな魅力の一つです。

今の仕事に就いたきっかけ

横浜・みなとみらい開発
の様子に憧れて

土木工事というと、一般的にはトンネルやダムをイメージすると思うのですが、私が携わっているのは都市部で交通や上下水道など人々の生活の基礎となる構造物を造る、都市土木といわれる分野です。地面に杭を打ち、掘削し、構造物を造って、最後に埋め戻す。都市土木の多くはこのような手順となります。

小学生の頃、横浜ではちょうどみなとみらいの開発が進んでいて、横浜ランドマークタワーや公園ができあがっていく様子を、「人が集まるような場所とか、大きい建物を、みんなで造っていくのっていいなぁ」と、間近で見ていました。

高校生になって、将来自分が何になろうか考えたときに、当時の気持ちを思い出したんです。それで、大学では建設工学を学ぶことにしました。ただ、いざ現実的に就職先を考えると、不安もありました。当時はゼネコンに就職する女性はほぼいなかったからです。

でもそれは、インターンシップで現場に行ったり、実際にゼネコンに入社した女性のお話を聞いたりすることで解消しました。その先輩は設計部の人で、現場監督をしている女性はまだいないとのことでしたが、いないなら自分がなってやろうという気持ちが一層強くなりました。

これまでの人生の山と谷

初めての現場
トンネル貫通に感動

現場に出始めてすぐの頃に担当した、首都高の工事のことは忘れられません。工期短縮のため、トンネルの両方向から掘り進める「迎え掘り」という、都市部なのに山岳トンネルに近い工法で掘削しました。

いよいよ今夜貫通するんじゃないかという日に現場に残っていたら、機械が掘った瞬間にバッと向こう側の光が見えたんです。穴がだんだん大きくなって、無事つながったトンネルを見たときはホッとしましたし、とても感動しました。

あの頃は異動したばかりで、毎日無我夢中。とにかく一生懸命でした。わからないことは会社の人や現場の人にたくさん質問して、仕事を覚えていました。自分の提案が聞き入れてもらえないこともありましたが、そこは粘り強く考えを伝えるよう心がけました。

土木工事は、人と人とが協力しあわないとできない仕事なので、自分がどういう考えで、どうしたいのかを相手にはっきり伝えることはとても大切です。

年数を重ねて、現場監督として任される範囲が広がってくると、協力会社との協議だけでなく、発注者や警察との対外協議もするようになります。みなさんそれぞれ要望があるので、それに対して自分たちがどこまで利益を確保しながら譲歩するか、どうやって施工するかを考えるのはすごく大変です。

要望をもらっては、事務所で他の人たちと協議して、また関係者のもとへ行くことを何度も繰り返しました。そこでどういう言い方をすればいいのかや、相手がノーと言ってきたときにどこまでなら譲れるのか準備をしてから協議に行くことを学びました。そこで学んだ、相手との交渉をある程度予想して協議に臨むスキルは、今でも役立っています。

これから目指すこと

子育てと両立
モデル示せたらいいな

私はいま、36歳。これから40代くらいまでが一番の働き盛りです。この先のキャリアをどう積むのかは、上司によく相談しています。

夫が同じ会社の別の部署で働いているのもあって、育児は協力して乗り越えることができていると感じていますが、子育てをしながら自分が望む部署でキャリアアップしていくにはどうしたらいいのか。

私の世代やその下の世代は、男性も女性と同じように子育てを分担している家庭が多いですから、後輩たちにもうまく引き継いでいけるような、一つのモデルを自分が示せたらいいなと思います。工事の監理技術者にも、いつかはなりたいですね。

オフの過ごし方+生活と仕事の両立

家事も育児も
がんばりすぎない

子どもとお菓子づくりをする村上さん

子どもが0歳のときは発熱が多く、夫と私、どちらが休みをいただくかの調整も大変でした。今は子どもも大きくなり、だいぶ落ち着いたとはいえ、子どもがいると残業はできないので、毎朝8時半から夕方5時までフル回転です。

子どもができてからは、明らかに働き方が変わりました。仕事の優先順位をパパパッとつけて、限りある時間を有効に使っています。週末に子どもとどこに行こうか考えるのも、楽しい時間です。自分の関わった構造物がある場所に、子どもを連れていったこともあるんですよ。

疲れて笑えないお母さんにはなりたくないから、家事も育児もがんばりすぎず、夫とうまくシェアするようにしています。

若者へのメッセージ

進路に悩んだら
自分を見つめ直す

進路に悩んだら、自分が小さい頃に何が好きだったかを振り返ると、進むべき方向が見えてくると思います。もしくは、自分がいま取り組んでいる活動に目を向けてみるのも、進路を決めるのに良い方法です。

私は中学、高校とずっと演劇部で、大勢で一つのものをつくるのが好きでした。大学では競技スキーをやっていたのですが、そこでもいくつかの大学が集まって行う大会の委員長を務めていたので、たぶんもう、性格的にみんなで一つのことをするのが好きなんでしょうね。ゼネコンはみんなで一つの構造物を造るのが仕事ですから、学生時代の経験は、就職活動においてPRポイントになりました。

社会人になると、一日のほとんどは仕事をしている時間です。どうせ就職するなら、好きなことや興味があることを仕事にした方が、人生が楽しくなりますよ。

東京駅前の工事現場に立つ村上さん(右)