万引きに関する有識者研究会
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万引きの現状(都内)
都内の刑法犯の認知件数は、戦後最悪の治安情勢と言われた平成14年の約30万件をピークに、平成28年には約13万5千件と半減しました。その約1割を占める万引きの認知件数は約1万5千件であり、近年の万引きの特徴は、少年の割合が減少する一方で高齢者の割合が増加しています。
(下図:少年:H22年約3割→H28年約2割、 高齢者:H22年約2割→H28年約3割)
また、万引きは再犯者率が高く、特に高齢者は万引きで捕まった人の58.7%(下図H28年暫定値)が過去に万引きを含む犯歴があります。
研究会設置の趣旨
本会は、身近な犯罪である万引きに関し、近年の特徴等から高齢者による万引きに焦点を当て、社会学や老年学等の視点も踏まえ、高齢期になっても誰もが安全に安心して暮らせるよう、その背景や要因等を探ることを目的に設置しました。
研究会委員(有識者等)
- 矢島 正見(やじま まさみ) 中央大学 文学部 教授(社会学)
- 鈴木 隆雄 (すずき たかお) 桜美林大学 老年学総合研究所 所長(老年学)
- 小長井 賀與 (こながい かよ) 立教大学 コミュニティ福祉学部 教授(司法福祉)
- 辰野 文理 (たつの ぶんり) 国士舘大学 法学部 教授(犯罪学)
- 星 周一郎 (ほし しゅういちろう) 首都大学東京 都市教養学部 教授(刑法・刑事訴訟法)
- 齊藤 知範 (さいとう とものり) 科学警察研究所 犯罪行動科学部 犯罪予防研究室 主任研究官(社会学)
- 茂垣 之雄 (もがき ゆきお) 警視庁 生活安全部長
- 廣田 耕一(ひろた こういち) 東京都 青少年・治安対策本部長
実態調査の概要
本研究会では、昨秋、万引きをして微罪処分(※)になった被疑者等を対象に実態調査を実施しました。
※微罪のため、検察に送致されることなく、警察の段階で手続が終了となった者
調査対象
- 都内の満65歳以上の一般高齢者
- 都内警察署において微罪処分となった満20歳以上の万引き被疑者
- 万引き経験のある満65歳以上の高齢者
- 3は逮捕歴や犯歴のある者(3名)へのインタビューにより万引きが習慣化していく過程や万引き対応の課題を考察
調査内容
家族関係や世帯月収等だけでなく、本人の内面にも焦点を当てて調査を実施
(日常生活に関することや暮らしぶり、万引きをしたときの状況、認知機能、規範意識、 不安感や不満感、自己統制力、支援してくれる人やその内容など)
調査分析
- 被疑者(65歳以上)と被疑者(65歳未満)、一般高齢者(65歳以上)の比較 (報告書P16~)
- 万引きで検挙された高齢者と一般高齢者に関する分析 (報告書P38~)
- 万引き被疑者群の分析 (報告書P55~)
研究会の議論及び報告書
本研究会での議論(全6回開催)や実態調査等を踏まえ、このたび、報告書をまとめました。
報告書の概要
1 高齢者による万引きの主な要因等
(1) 本人の意識における生活苦
高齢被疑者は、一般高齢者と比べ世帯収入はやや低いものの、客観的に生活困窮レベルにある者は少ない。一方で、主観においては、自らの生活を苦しい、他者と比べて生活レベルが低いと実感している者が多い。
(2) 体力・認知機能の低下
高齢被疑者は、同年代の他者と比べて体力の衰えを実感している割合や、認知機能の低下が疑われる割合が一般高齢者と比べて多い。認知機能については、万引きと認知機能低下との共通の危険因子として、低学歴、経済的低さ、ソーシャルサポートの低さが把握された。ただし、両者に統計的に有意な関係は見出されなかった。
(3) ストレス耐性の弱さと万引きのリスク認識の低さ
- 高齢被疑者の殆どは、一般高齢者と同程度の規範意識を有している一方で、高齢被疑者は自己効力感や自己統制力が低く、ストレスへの耐性が弱い。
- 高齢被疑者は捕まることへのリスク認識が低く、万引きがもたらす結果を甘く捉えている傾向にある。
(4) 社会関係性の希薄化
高齢被疑者は、配偶者無し(未婚、離婚、死別等)が約6割、独居が5割弱で、家族との連絡頻度、家族等による経済的、情緒的サポート等が弱い。
(5) 高齢者の万引き防止に向けた支援の弱さ
高齢万引き被疑者の多くは微罪処分、不起訴等で釈放されており、刑事手続きからの早期解放は社会復帰を容易にする反面、被疑者に対するサポートという面が弱い。万引きで捕まった際の初期の対応やその後の支援のあり方が重要。
2 万引き防止に向けた主な提言
(1) 高齢者の孤立防止に向けた取組の推進
万引きのような高齢者が加害者となる事案だけでなく、特殊詐欺のような高齢者が被害者となる事案も含めて高齢者の社会問題を周知し、社会において高齢者の孤立防止に向けた取組推進が必要
(2) 店舗における見守りの視点も含めた声かけの推進
高齢者の万引きを防ぐため、店舗における捕捉に加えて、見守りの視点も踏まえた声かけや防犯カメラの稼働表示の強調などの取組促進が必要
(3) 再犯防止に向けた取組の必要性
被疑者が罪を自覚し、二度と犯罪を繰り返さないよう、被疑者に対する教育プログラムなど再犯防止に向けた取組の検討のほか、高齢者を取り巻く関係機関の情報共有と支援体制の整備が必要
3 今後の都の取組(29年度以降)
(1) 普及啓発の促進
万引き等の高齢者の社会問題を周知し理解を深めるため、都民・福祉機関・関係業界等に対し、リーフレットを配布するほか、高齢者を取り巻く関係者等を対象とした講演会を開催(予定)
(2) 店舗における取組の推進
店舗に対し声かけの推進を働きかけるとともに、東京万引き防止官民合同会議(事務局:警視庁)において進めている、万引きさせない店づくりの模範となる「モデル店舗」の認定を推進
(3) 再犯防止に向けた取組の検討
再犯防止推進法に基づく対応の中で、都・警視庁・区市町村等における連絡体制を整備し、高齢者の万引き防止を含む再犯防止に向けた情報共有や取組に関する検討を開始(予定)
パンフレット
報告書の内容を分かりやすくまとめたパンフレットを作成しました。
研究会議事録
第1回
- 報告「店舗における万引きの実態について」
特定非営利活動法人 全国万引犯罪防止機構 事務局次長 稲本義範氏
第2回
- 報告「万引き高齢者に対しての時代状況からの総論的考察―文化的社会的経済的要因を求めて―」
中央大学 文学部 教授 矢島正見座長